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【ウルッとくる話】「私はボールペン。198円の緑ペン」

ボールペン「ご主人様と出会ったのは、2年半ほど前でしょうか」

ボールペン「町はずれの文房具屋で、買い手もつかないまま店頭に並んでいた頃」

ボールペン「隣の赤ペンさんや青ペンさんはどんどん買われていくのに」

ボールペン「私を買ってくれる人はなかなか現れなくて」

ボールペン「入荷したら早いうちに売れる黒ペンさんがうらやましくてたまらなかったあの頃」

ボールペン「真新しい制服に身を包んで」

ボールペン「四角のはっきりしたスクールバッグをしょったご主人様がやってきて」

ボールペン「黒ペンさん、赤ペンさん、青ペンさんと一緒に」

ボールペン「私も一緒に買ってくれましたね」

ボールペン「お店で買われていくみんなを見て」

ボールペン「私もいつか、いいご主人様に巡り合いたい」

ボールペン「お役に立ちたいと思っていました」

ボールペン「でもようやく」

ボールペン「抱き続けてきた夢が」

ボールペン「やっと叶いました」

ボールペン「試し書きだけで私の人生が終わるんじゃないんだって」

ボールペン「とっても嬉しかったんですよ?」

ボールペン「でも」

ボールペン「学校の授業で黒板にチョークで字を書くときは」

ボールペン「白、黄、赤の3色までしか使わない先生が多くて」

ボールペン「私の出番はなかなかありませんでした」

ボールペン「筆箱の中からご主人様のお役に立っている赤ペンさんたちを見て」

ボールペン「あんな風にお役に立てればなぁって思ってました」

ボールペン「筆箱のチャックが開くたび」

ボールペン「いつもドキドキします」

ボールペン「今日は使われるんじゃないかな」

ボールペン「ご主人様のお役に立てる時が来たんじゃないかなって」

ボールペン「でも、その指は」

ボールペン「赤ペンさん、青ペンさんを手に取ってしまうんですよね」

ボールペン「赤ペンさんと青ペンさんのインクがどんどん減っているのを見て」

ボールペン「ご主人様に愛されているんだなぁとうらやましく、悲しくなります」

ボールペン「キャップの内側に着いたインクの染みも」

ボールペン「赤ペンさんたちは、こんなに汚れちゃったよとぼやくけど」

ボールペン「私にはそれがどうしても活躍の証に見えてしまって」

ボールペン「悔しくなって」

ボールペン「自分を使ってもらうために」

ボールペン「筆箱の揺れにまぎれて赤ペンさんたちを筆箱の底に追いやって」

ボールペン「私が一番上になるようにもしました」

ボールペン「でも、ご主人様は私を押しのけて行ってしまいましたね」

ボールペン「そんなある日」

ボールペン「筆箱の口の隙間から不機嫌そうなご主人様が見えました」

ボールペン「キャップを閉められ、少し乱暴に筆箱に押し込められてきた赤ペンさん」

ボールペン「私を見ると、赤ペンさんは悲しそうな顔をして言いました」

ボールペン「”僕、もうそろそろだめかも”って」

ボールペン「その瞬間」

ボールペン「ご主人様に筆箱から私を取り出して」

ボールペン「”しょうがないからこっちでいいか”といいながらキャップを外しました」

ボールペン「やっとでご主人様のお役に立てる時が来たのに」

ボールペン「筆箱の向こうで悲しむ赤ペンさんを想うと、」

ボールペン「どうしても喜びきれませんでした」

ボールペン「赤ペンさんの代わりとして取り出された今の私も、」

ボールペン「進んで求められて筆箱から出てきた存在でないのだと悲しくなりました」

ボールペン「翌日」

ボールペン「新しい赤ペンさんが筆箱にやってきました」

ボールペン「”先輩、よろしくお願いします!”」

ボールペン「青ペンさんと私に挨拶をする新入りの赤ペンさん」

ボールペン「キャップもピカピカでインクもいっぱい」

ボールペン「あの頃が懐かしいなぁなんて青ペンさんは笑ってるけど」

ボールペン「私は、ずっと何も変わらない」

ボールペン「インクも減らないし、キャップも汚れてない」

ボールペン「私は、全然先輩なんかじゃないよ・・・。」

ボールペン「黒ペンさんはご主人様の胸ポケットでいつも行動を共にしていて」

ボールペン「赤ペンさんは授業になると、いの一番で飛び出していく」

ボールペン「青ペンさんは赤ペンさんのいいパートナーで」

ボールペン「緑ペンの私は・・・」

ボールペン「・・・」

ボールペン「いったい何なんだろう・・・?」

ボールペン「ご主人様に買われてから1年が経ちました」

ボールペン「私のインクが1㎝減るまでの間に」

ボールペン「何回新しい赤ペンさんと青ペンさんがやって来たでしょうか」

ボールペン「先輩と呼ばれた相手に、何度先に筆箱から旅立たれたでしょうか」

ボールペン「筆箱の中で他の人たちとぶつかる痛みにももう慣れました」

ボールペン「赤ペンさん、青ペンさんのインクが切れた後の、」

ボールペン「つかのまの間に合わせとして私の出番が来ることにも慣れました」

ボールペン「私はそういう生き方をご主人に求められるのなら」

ボールペン「私はそうやって生きていきます」

ボールペン「ずっとお店で誰にももらわれずに並んでいるよりは」

ボールペン「その方がずっと幸せだと思ったから」

ボールペン「夏休みの直前の7月」

ボールペン「私は頻繁に筆箱から取り出されるようになりました」

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